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沢木耕太郎「イルカと墜落(文庫版)」読了

水曜日, 2月 24th, 2010

僕は沢木耕太郎さんと歴史小説以外の本は殆ど読まない。しかも文庫版しか読まない。
小説は人の名前が覚えられないし、単行本は重いので、という酷い理由なんだけども。
※YOSHIKIの自伝は仕方なく読んだ。あれもちょっとした鈍器みたいだった。

なので、僕は沢木耕太郎フリークを自称しているが、単行本で発売されている沢木さんの作品はリアルタイムでは読んでいない。だから数年前に発売されたこのタイトルと、沢木さんが墜落事故に遭われていたことは知っていたから、非常に楽しみにしていた。

本書は、これまでの(少なくとも文庫で発売されてる)諸作品と比べると2つの理由で異端な作品と思う。

今回の旅はNHKのドキュメント番組のための取材で、その取材の成果は実際にテレビで放映されている。本書は、その番組を補完する意味合いで出版計画が立てられていたのであろう。僕を含めた多くのファンはそれを望んでいたはずだ。

ただ、その過程で墜落事故にあった。
異端であると書いた理由のひとつはこれだ。

二つ目の理由は、この「事故記」では珍しく沢木さんの感情が吐露されているからだ。

古い作品では、自らが語り部として登場する「一瞬の夏」のように、喜怒哀楽がはっきりと分かる作品もあるが、その「一瞬の夏」も、父親の死と向かい合った「無名」でさえも、沢木さんは常に冷静で、カラッとした文章で、心情を吐露するようなことは少なかった。

だがら、飛行機がまさに墜落しようとした瞬間に、「マジかよ!」と叫ぶその描写が、僕にとって、もっとも意外だったのだ。

ノンフィクションは事実の描写が優先されるものだ。だから、取材者の主観が入る「私ノンフィクション」と呼ばれる沢木さんの諸作品は、事実とそれを見つめる沢木さんの感情が交差して、読者を興奮させる。どちらの割合が多くてもいけないのだ。事実を偏って記述してはいけないし、感情が篭りすぎると事実が見えなくなる。だからこそ、沢木さんは徹底的な取材を行い、分かりやすい感情描写を抑え、「事実に語らせる」事を第一にしてるのだろう。

そんな沢木さんの「マジかよ!」という直球すぎる精神描写に大変驚いたし、これこそが本書を発表した理由なんだと思う。だって、自分が取材されるかもしれない状況にいて、しかもそれが墜落事故なんだから!